濱瀬元彦によるノート

 『アネクドート』に収録された録音はスパイラル(株式会社ワコール・アート・センター)の企画主催によるEAT NEWSIC コンサートNo.3/MOTOHIKO HAMASE Concert "Reminiscence"として青山スパイラルのスパイラル・ガーデンで1987年6月12日に行なわれた演奏である.
 このコンサートが機で出会った打楽器奏者山口恭範さんには感銘を受け次の年にスパイラルのCDレーベルNEWSICの第一弾である『樹木の音階』という作品集の録音に参加していただいた.
 『アネクドート』には現在,廃盤の憂き目を見ている『レミニッセンス』,『インタリヨ』の主要な作品群が収められている.また後に『樹木の音階』に収録することになる"pascal"の原形である"pascal variant"や全く未発表の"anecdote"が含まれている."anecdote"とは「秘話」とか「未刊」を意味する単語である.この曲がどうゆうわけかこれまで録音の機会から常に外れてきたことや,このライブ録音のテープ自体が何度も企画にのりながら未刊に終わってきたことからアルバムのタイトルもアネクドートとした.
 このアルバムの演奏や作品は私にとって愛着の深いものである.私は山口さんのアプローチの素晴らしさに触発されてうまく力が抜けとても繊細な即興演奏ができているし,キーボードの梶俊男の演奏も私の知るかぎりのベスト・プレイである.また約十年程前に書きためた曲が中心だが,今から見ればこれらの作品には私の内部でジャズというものを清算した勢いのようなもの,作曲する喜び,初々しさが満ちている.ここに収めた作品群は言ってみれば私の資質の世界に相当するのではないかと思う.しかし,こうしたある意味で幸福な状態は私にとってはすでに過去のものだ.資質の世界は守りたいが同時に積極的に「現在」というものに身をさらし表現者としての力量を試していかなければならないからだ.『アネクドート』とスパイラルから発売になっている二作品,『樹木の音階』と『テクノドローム』を較べて聴いていただくとこの変化はわかっていただけると思う.
2/1/1993