DISCOGRAPHY (Comment/Note/Critic)

#Notes of Forestry

●comment

Motohiko Hamase/Notes of Forestry

 

Explore the Many Shades of Green

The third album by bassist/composer Motohiko Hamase searches for new frontiers of natural expression. Using computers to craft his compositions, Hamase accompanies his provacative yet gentle bass playing with the streaming piano of Satsuki Shibano and the subtle dynamics of percussionist Yasunori Yamaguchi. Like a vast painted landscape, Hamase's insightful instrumental pieces echo his conviction, that "there is always more music than words in a musician."


●critic on "Audion" (English) July 1990

Audion #15 July 1990

 

MOTOHIKO HAMASE #NOTES OF FORESTRY

(Newsic 32CD-N001) CD:38m

 

Hamase's recording of minimal/post-minimal music is clearly inspired by Steve Reich, but it has a lovely Zen pantina and serene air that is so often characteristic of Japanese composes. Like Reich, Hamase favours the timbres of woodwind instruments (synthesized or sampled), piano, mallet instruments and percussion, augmented by electronics and studio treatments. However, the underlying pulse is not quite as insistent as Reich's, and the harmonic language is a bit more complex and dissonant, though Hamase in no way abandons tonality. The somewhat spikey woodwind melodies and interlocking patterns of NUDE are reminiscent of Reich's brilliant woodwind writing in TEHILLIM and VARIATIONS, and are equally effective. PASCAL is characterized by curious, rocking synthesized flute or recorder ostinatos and periodic angular melodies, with irregular punctuation by electric bass and metal percussion. Hamase makes his most personal and distinctive statement in #NOTES OF FORESTRY, with its angular, but lovely melodies, modular mellet percussion patterns, and a blend of jazz tinged electric bass and flute solos with more rigorous, post-minimal structures and textures. Hamase makes some very special music indeed.

[Newsic, Wacoal Arts Center, 5-6-23 Minami-Aoyama, Minato-ku, Tokyo 107, Japan.]

 

Dean Suzuki


●critic on "Ear Magazine"(U.S.) April, 1991

 

MOTOHIKO HAMASE

Notes of Forestry

Newsic(CD)

 

Hamase's brand of minimal, or perhaps more accurately, post-minimal music has a lovely Zen patina and the gentle air that characterrizes the work of many Japanese composers. Like Steve Reich, Hamse favors woodwind instruments (sampled or synthesized), piano, and , especially, mallet percussion - timebres fleshed out and augmeted by electronics and various studio processes. Unlike much other minimal music, the underlying pulse, while present, is not insistent. In addition, the individual harmonies are at times complex and rich, even dissonant, though Hamase never abandaons tonality. " Nude" features interlocking patterns and rather spiky woodwind melodies, while "Pascal" is characterized by unlikely rocking ostinatos and angular melodies for flute or recorder-like timbre, with irregular punctuations from electric bass and metal percussion. Hamase's most distinctive and personal musical statement is delivered in "Notes of Forestry," which combines jazzy electric bass and flute line and oblique, irregular, but lovely melodies with modular mallet petitive structure. Surprisingly, this seemingly incompatible mix of structural rigor and loose, even free musical events works very well indeed.

 

Dean Suzuki


Anecdote

●comment about this album

 

『レミニッセンス』、『インタリヨ』の時期のレパートリーに未発表曲を含む十二曲の青山スパイラルにおける八十七年のライブ録音。現代音楽打楽器奏者の最高峰・山口恭範をゲストに迎え白熱した演奏は未踏の音楽的領域に達しています。『樹木の音階』以前の濱瀬元彦を知るに最適のアルバム。

 

スタジオ録音では伺い知ることのできなかった濱瀬元彦の驚異的なフレットレス・ベース・テクニックの全貌を七十二分たっぷりと聴くことが出来ます。

 

●note by Motohiko Hamase

 

濱瀬元彦によるノート

 

 『アネクドート』に収録された録音はスパイラル(株式会社ワコール・アート・センター)の企画主催によるEAT NEWSIC コンサートNo.3/MOTOHIKO HAMASE Concert "Reminiscence"として青山スパイラルのスパイラル・ガーデンで1987年6月12日に行なわれた演奏である。

 このコンサートが機で出会った打楽器奏者山口恭範さんには感銘を受け次の年にスパイラルのCDレーベルNEWSICの第一弾である『樹木の音階』という作品集の録音に参加していただいた。

 『アネクドート』には現在、廃盤の憂き目を見ている『レミニッセンス』、『インタリヨ』の主要な作品群が収められている。また後に『樹木の音階』に収録することになる"pascal"の原形である"pascal variant"や全く未発表の"anecdote"が含まれている。"anecdote"とは「秘話」とか「未刊」を意味する単語である。この曲がどうゆうわけかこれまで録音の機会から常に外れてきたことや、このライブ録音のテープ自体が何度も企画にのりながら未刊に終わってきたことからアルバムのタイトルもアネクドートとした。

 このアルバムの演奏や作品は私にとって愛着の深いものである。私は山口さんのアプローチの素晴らしさに触発されてうまく力が抜けとても繊細な即興演奏ができているし、キーボードの梶俊男の演奏も私の知るかぎりのベスト・プレイである。また約十年程前に書きためた曲が中心だが、今から見ればこれらの作品には私の内部でジャズというものを清算した勢いのようなもの、作曲する喜び、初々しさが満ちている.ここに収めた作品群は言ってみれば私の資質の世界に相当するのではないかと思う。しかし、こうしたある意味で幸福な状態は私にとってはすでに過去のものだ。資質の世界は守りたいが同時に積極的に「現在」というものに身をさらし表現者としての力量を試していかなければならないからだ。『アネクドート』とスパイラルから発売になっている二作品、『樹木の音階』と『テクノドローム』を較べて聴いていただくとこの変化はわかっていただけると思う。

2/1/1993


Technodrome

●Notes on "Techndrome" by Motohiko Hamase

 

『テクノドローム』 濱瀬元彦によるノート

 

 集合的、非人称的(匿名的)なハウス・ミュージックの製造者が強烈なビートとベースの音響を中心に据えることで、無方法だが調性の枠組みを越えようとしていったこと、かつてノイズと楽音との境界を無化しようとしたジョン・ケージの作品となんら変わらない音楽空間をアンビエント系ハウスが実現し、これを知的な上昇としてではなくファッションや格好のよさとして無数の人々が消費していったことに数年前、私は感慨をおぼえた。しかし、この現象は触媒としてドラッグが極めて大きな役割を持っていた。ハウス・ミュージックはマス化とパターン化を同時に果たし、ドラッグの作用を最初から当て込んだ甘さを露呈し始めた。こうしたハウス・ミュージックの隆盛と堕落の過程で私はそれらにしばしば触発された。私はハウス・ミュージックの示した傾向が単なる流行やファッションのみではなく音イメージに対する本質的に重要な変化の象徴であると感じたのだ。そして,この変化の兆候をずっと以前から意識的に追及して来た人たち、ブライアン・イーノとジョン・ハッセルの二作品を昨年初秋、耳することになった。ブライアン・イーノの『Nerve Net』('92) は作品化されたハウス・ミュージックとして最も優れた例であった。またジョン・ハッセルの『CITY: works of fiction』('90) は都市音楽そのものに対する徹底性のある表現となっており、近年の最も高度な音楽的達成と断言できる。同時に、この二作品にはここ十年来、私が行なって来た音楽的試みとの著しい共通性を感じた。ところで私は昨年春に次の作品集として室内楽曲集を企画し、その作曲と人的な手配を進めていた(このCDの八曲目に収めた「Lattice for saxophone quartet」は企画の発端となった作品である)。しかし、この二作品に対して緊急に自分なりの見解(作品)を示す必要を感じ、『テクノドローム』の制作へと急拠,変更することとなった。

 『テクノドローム』ではこれまでにないことをいくつか試みた。具体的には低音域に新しい手法をほどこしたこと、録音に一人称性を確保するために演奏、録音エンジニアリング、トラックダウンのすべてを私一人でやっていること(Digidesign Pro Tools systemを用いコンピュータ内部で録音、編集、ミックス、トラックダウンのすべてを行なった)。ベースのインプロヴィゼーションを単なる「語り」や「歌」としてでなく、反復のイメージ更新のための情景や、意識の緒形態として配置していることなどである。ここで私はインプロヴィゼーション=実存という古い信仰を解体しようとしているのだ。

 形式的には『テクノドローム』では展開や転換を持たない構造、極端に短い章句の反復による構成、それらによる強い拘束力を持つ時間の実現などが意図されている。実はこの技法上の意図は前作『樹木の音階』となんら変わっていない。しかし『樹木の音階』が生命の触手や親和への意識を幻聴のレベルで表現しようとしたものだとすれば『テクノドローム』は現在の都市の街区から得られる倒像、錯視、既視感をハウス・ミュージックの本質的な部分が到達したざらついた触覚で表現しようとする意図を持っている。それは同時に暗喩としての胎内時間の再生の試みでもある。

3/10/93

 

●Annotatons for Each Track by Motohiko Hamase

 

個々の曲へのメモ by 濱瀬元彦

1. Invissible city
サンプリングCDから採取したチープな音色のドラムパターンと波形シーケンスがつくる不定形でグロテスクな低音のパターンをベースに架空の近未来都市におけるポップス、ジャズのイメージを作品化してみた。私のベースソロは入っていない。
2. Technodrome
波形シーケンスによるベースパターンとスネア・ドラムと無数のクラップが作る反復が基本構造である。低音域の従来には存在しない形式が作れていると思う。私はフレット付きのベースにディストーションをかけてソロをとっている。ソロは物語の語り手ではなく反復するリズム(物語そのもの)に色彩を与える役割として参加している。
3. Imagery
波形シーケンスが4つ重畳されわずかにディストーション・ギターを連想させるパターンを作っている。それに鋭いリズム的アタックとノイズのコラージュが曲の骨子である。私のソロはこの作品集のなかではもっとも明瞭にトーナリティーを出している。ただしわたしの理解している新しい調性のシステムに基づいて、である。このベースの音色をこもっていると思う人もいるかもしれないが私はこの音色が気に入っていて、わざわざ十ヵ月もはった弦を使っている。Imageryはイメージの集合体をさす。
4. opaque
都市の極度の高度化が同時に極度に退化したイメージをつくるとすればこの音響のようなイメージではないだろうか。ベース・ソロは饒舌に演奏されるが曲のメインのイメージの下をくぐって意識の存在を感じさせるだけである。opaqueとは不透明体を意味する。
5. End of legal fiction
実はこの作品集のなかで最初に完成した曲であり、この曲によって全作品の方向は決定されたといっていい。ジャズに関与している人々はこの曲と私のインプロヴィゼーションをどう聴くのだろうか?End of legal fiction(擬制の終焉)はまだジャズの神話を信じている人々に送る私のメッセージである。若い人はハードロックを聴くようにこの音楽を聴きながら高速道路をぶっ飛ばして欲しい。
6. Chirico
画家キリコの作品のあの空間を連想するのでキリコと名付けた。感覚の鋭い人はこれをハウス・ミュージックとして聴いてくれると思う。
7. Moriana
サンプリングCDデータに入っていたログドラムのパターンがあまり素晴らしいのでそれをループさせてそのうえに作曲した。雲のような霧のようなサウンドが定期的に繰り返す合間をぬってベース・ソロが展開される。ソロは比較的安定したトーナリティーを提示するがスピーディーに反復される風景にさまさまな心理的な投影を与えるものとして聴いてくれればいいと思う。Morianaはイタロ・カルヴィーノ『見えない都市』に描かれた架空の都市である。「都市は次から次へと遠近法にかなって映像を増殖させ、広がっていくように見える。ところが、実はMorianaには厚みがなく、一枚の紙のごとく表と裏の二面のみが存在し、しかもこの紙の両面にかかれた像が離れることも相まみえることもないのである。」(高橋康也訳 架空地名大辞典より)
8.Lattice for saxophone quartet
 1988年に作曲されHarmo Saxophone quartetのリーダー中村均一氏に委嘱されサックス・カルテット用に1990年に編曲した。1991年3月8日に上野石橋メモリアル・ホールで行なわれた第四回 Harmo Saxophone quartet *の定期リサイタルで初演された。本作品集に収めた演奏はそのときのライブ録音である。この曲を最後にもってくると『テクノドローム』の曲構成がなかなかよく納まると感じられたので収録することにした。
 演奏者は中村均一(ss)、遠藤朱実(as)、岩本伸一(ts)、栃尾克樹(bs)である。この日のコンサートは「音楽の友」誌の91年ベスト・コンサートのひとつとして挙げられた。この日のプログラムに私は以下のような文章を寄せた。以下そのまま引用する。
作品ラティスについて
 「ラティス」は最初、ピアノ、打楽器のために書かれた。初演は1988年に山口恭範(打楽器)、柴野さつき(ピアノ)と濱瀬元彦(ベース)によって行なわれたがソロアルバムには収録されていない。私としては初めて意識的に複調(Poly Tonality)を用いた作品である。小さなフレーズが反復され、均質なリズムのなかで微変化を重ねていくが、短9度が打楽器的な効果を出しているように思う。格子模様のある半透明な板を重ねて少しずつずらせていくような視覚的なイメージを感じることから「ラティス」(格子)と名付けてみた。
 今回、サクソフォーン・カルテットのためにアレンジしなおしたが、5線紙に音符を書いただけで表情や、強弱、音色については何も指定していない。実際の演奏に関する解釈はすべてアルモ・サクソフォーン・クァルテットの業績である。

*Harmo Saxophone quartetの演奏は作品集"The Days of Quartet"/『四重奏の日々』(オレンジ・ノート・プロダクション CD.ON2003, 問い合わせFax.045-562-8158)で聴くことができる。